講師ギャラリーvol.8-2『小沼隆一郎リトグラフ展』〜ホンダNSXシリーズ
09 月 17 日

講師ギャラリー vol.8-2
『小沼隆一郎リトグラフ展』
〜ホンダNSXシリーズ
■出展者
小沼隆一郎(おぬまりゅういちろう)先生
(担当科目)
イラストレーション科1年
デッサン
■日時
9月16日(水)〜10月7日(水)予定
■場所
日本デザイナー学院 2階学生ホール
来校された際は、ぜひご覧下さい。
◆小沼先生よりコメントをいただいてます
ホンダNSXシリーズについて
ホンダNSXとは、本田技研の創業者である本田宗一郎氏の生前最後に生産されたスポーツカーで、全面アルミボディの高性能車でした。
この車は手作業による成形アルミボディということもあり、月産250台という通常の車の生産からすれば驚くほどの希少生産でした。しかしこの車が発表された1990年というのは、いわゆるバブル経済の最後で、非常に高価であったにもかかわらず、当初は発売前から全車売切れといった、今では考えられない状態だったのです。
むしろ生産が追いつかず、納車待ちのユーザーに向けて、何かわくわくするようなグッズはないかということで、月産台数の250という数字と版画のエディション(刷り枚数)数とが近いということもあり、どうしたわけか、博報堂を通しての仕事が私にやってきたというわけです。なぜ私の作品が選ばれたのかというと、それまで、ヨーロッパの都市風景のなかにいくつかの特徴ある車が描かれている作品を制作していたことが大きな要因として挙げられます。
リトグラフという美術品をあえてスポーツカーユーザー向けの購入契約記念品として扱うといった、これまでにはありえない企画が決定された背後には、良い意味での車のイメージを高めようという意欲的なホンダ側の意識も働いたようです。
絵作りの条件として、まず背景はヨーロッパの都市であること、当然ですがNSXが正確に大きく描かれていることなどがありました。また、発売当初はNSXは赤とグレーの2色のボディカラーしかありませんでしたが、特に赤の発色には気をつけてほしいという条件がありました。
ともかく、毎月250枚ずつ(その後275枚ずつ)作品を納入し続けなければならないということになりました。
そこで、私が一番困ったのは、最終的な企画の決定者である、ホンダ広報・デザイン部の担当者の方々に下絵のOKをもらうまで、中間のいろいろな立場の関係者の目を通さなければ、次の作品の刷りに取りかかれないという状況が絶えず続いたことです。
私が直接ホンダの担当者の方々に会って話ができれば簡単なのですが、通常、企業というところは大手の広告代理店を通してしかこのような契約は結びません。従って、博報堂のホンダ担当から、下請けの企画担当を経て、さらに画商さんを通して初めて私のところに決定事項が伝えられるという状況でした。
いくらこちらが頑張って早めに次の作品の下絵を描いても、博報堂の担当者がたまたま別な仕事で出張などしていたりすると、ホンダ側からの返答があるまで、1週間以上も待たされることもありました。さらに場合によっては「直し」が入ることもありました。
これではカラーでの多色刷りはまず無理です。そのため、まずは白黒の作品を間に合うように作り、翌月に同じ絵で多色刷りを行うという方法でなんとかOKをもらうことができました。そのため、同じ絵でモノクロ作品と多色刷り作品が2種類以上存在することになりました。
NSXの形については、最初はプロのカメラマンがヨーロッパへ出向いてそこで撮影した写真のコピーをもらい、その中から幾つかを選んで作画しました。ところが写真に写っていた車は外国仕様でハンドルの位置が日本とは反対側だったのです。国内仕様に直してくれということでなんとかハンドルの位置を直しました。
そのうち、ヨーロッパ風景は私が自分でこれまでに撮影した写真から選び、本来そこにないはずのNSXをまわりの風景に合うように描き加えるという、「合成作画」を行うことになりました。すると、最初にそこに存在していた車との関係で、NSXがあまり目立たないという理由で作品自体が「ボツ」になったこともありました。
実は1点(白黒1点、カラー1点)だけ東京の迎賓館をバックに制作したものがあります。この作品こそが、唯一私が博報堂の担当の運転するNSXに乗せられて、現場で直接撮影できた作品なのです。車体への写り込みなどはやはり現場で撮影した写真でないと描けません。そしてなぜこの作品だけヨーロッパではないのかというと、あらかじめ用意していた作品がボツになったため、急遽間に合わせで別な作品を作ることになったからなのです。
このようにして約1年半の間、毎回なんとか期限には間に合うように制作が続きました。全部で18点、毎月緊張の連続でした。NSXの生産はその後も続きましたが、バブル経済が崩壊して、何ヶ月も納車待ちを強いられるという状態ではなくなってしまい、思ったよりも早めに私のリトグラフは生産中止となりました。
私の作品は今でもインターネット・オークションで売買されているようです。
また最近、テレビ番組(「なんでも鑑定団」)などにも、本人が全く知らないうちに紹介されたりしています。
いまだに作品が大切に扱われていることは作者としては非常に名誉なことだと思います。
小沼 隆一郎
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